***心理学の実習について その2***

私の働いている場所は地下1階で、9時から3時まで開いている。私が働くのは月曜日から金曜日まで毎日で、1回につき1〜2時間働く。それに毎週火曜日に、大学院生と、大学生、この実習の責任者である教授とで、施設が閉まったあとに2時間程のミーティングがある。土曜と日曜は施設も休みだ。ここに火曜障害者達は平日に毎日6時間ここに来て、そのうち1時間は昼食の時間なので、5時間の行動矯正のプログラムを受ける。

私の住んでいる街は、冬の日照時間が非常に短い。その上曇りや雪の日も多いので、冬場の太陽というのは、とても貴重なものに感じる。しかし、この施設にくる障害者達は、この束の間の日光を楽しむことが殆どできない。何故なら、この施設は地下にあり、窓が1つもないからだ。

この施設の正面玄関は24時間ロックされていて、インターフォンで自分が何故この建物に来たのか、理由を述べて開けてもらわなければいけない。1度ドアを開けて、閉めれば、再び自動的にロックがかかる。地下に行くエレベーターには張り紙があって、「関係者以外のものは、地下に行くことを禁じる」と書いてある。非常に閉鎖的な空間だ。

日に当たる時間が短いせいなのか、それとも運動不足なのだろうか。彼らの殆どは、あまり顔色がよくない。地下の、彼らが過ごす場所は充分なスペースがあるが、走りまわったりするひとはいない。のろのろと歩いていたり、椅子に座っていることが多い。太陽の移ろいさえも分からない緩やかに動く空間と時間のなかで、突発的なアクシデントが絶え間なくおきる。

彼らの知的障害の程度は様々だ。洋服を自分一人で着ることができない人もいる。時々、その訓練を受けている人達が、素っ裸で歩き回ったりしている。しばしば言うことを聞かないで、洋服を着ないのだ。床に寝転んだまま這って動き回る人もいる。壁にひらすら自分を打ちつけようとする人もいる。共通の特徴は、彼等は1つの行動を続けたがることだ。片手を小刻みに動かしつづけたり、首を振りつづけたりする。

しかし、それを見つめたり、何か言う人はいない。働いている人達も指示を与えるべき担当の人以外は何も言わない。独り言や、ひきつけをおこしたり、叫んだり以外を除くと、彼らのほとんどは静かだ。プライベートな会話は働いている人達の間にも、彼らの間にも、そして働いている人と彼らの間にも殆どない。

彼らはどれくらい、私達を認識しているのだろうか。個人個人を見つめているのだろうか。それとも「指示を与える人」という、おおまかな概念しかないのだろうか。それとも、自分と他人という認識なのだろうか。彼ら自身の間の関係はどのようなものなのだろうか?定義などなく、周囲の人間はただそこに在るだけなのだろうか。多くはこの空間の中で、肉体的な距離を置いている。心理的な距離は分からない。私と彼らの距離は非常に遠い。いつか私は近づけることができるのだろうか。3-5-01